「神様ってどんなものなんだろう。人間なのかな」

入野はしみじみと言った。

「……おれの中にはそうであってほしくない自分しかいない」

「人間じゃない方がいいってこと?」

「当然だ。所詮は同じである生き物に人生を弄ばれてるわけだろう?」

「まあ……それもそうか」

「幸いなことに、神の存在は人それぞれだ。前に聞いた言葉をそのまま使えば、神はその人の心の中にいる。どうにでもできるんだな」

「いると思えばいて、いないと思えばいない。形もそうってことね?」

「今はな。これからどうなるかはわからないが。今の世界は、なにもかも捉え方次第でよくも悪くも変えられる」

そうは言うけどさあ、と入野は頬杖をついた。

「わたしの不運はどう幸運に変えられる?」

「貴様の不運、な……」

「なによ、そんなもの不運ではないとでも言うわけ?」

「いや、今はそんなこと言わないよ。その人が不運だと思うのなら、それは不運だ」

「紫藤も成長したのね」

「おかげさまでな」

おれは小さく唸った。

「入野の不運か……。自由が少ないとも思えるが、金や将来に困ることはない――みたいな」

「まあ、どうしようとはならないわね。あのままだったら会社を継ぐ他ないんだから」

「進学するか就職するか、進学するにしても専門か大学かで迷うより楽だとも思えるはずだが」

「まあね……」

そう捉えられるほどの大人になりたいものねと入野は笑った。