「ということは、その力は、願いの内容が具体的であればあるほど実現しやすいということ?」

「おお、賢いな」

「そう思いたかったのよ」

「まあ安心しろって」

おれは苦笑した。

「おれは神だ」

「よくもまあ一切の恥ずかしげもなくそんな気持ち悪い台詞を吐けるわね」

「台詞ではなく事実だ」とおれは軽く両手を広げた。

「それを事実だと思いこんでいるところがまた気持ち悪いのよね」

「でもこの気持ち悪さのおかげで、おれは貴様を救うことができる」

入野は目を逸らし、うつむいた。

少ししてこちらを向き直り、「頼りにしてるわよ」と微笑む。

「ああ。だから貴様も頑張れ」

入野はなにかを思い出したように声を上げた。

「神様って、どうしてすぐには助けてくれないの?」

「言ったろう、幸運ばかりでも面白くない」

「そんなの嘘よ。幸せな方がいいに決まってる。本気でそう思ってるなら、考えを改めた方がいいと思う」

「まあ……正しいか否かはさておき、なんらかの決まりの元に動かねば、神々の好みで幸運の数が変わってしまいかねないだろう」

「もうすでにその好みで変わってる気がするんだけど。ものすごく幸せな人がいれば、そうでない人もいる」

「貴様の言うそうでない人は、自分を不幸だと思っていないことが多い。また、一般的に不運と言われるものを知っているからこそ、優しい人が多い」

「そんなの、小綺麗なフィクションだけでの話よ。実際には、その不運や不幸にすべてを狂わされている人だって多いはず」

「……ならばおれが、これから出逢うそういった人々を救うまでだ」

「じゃあ、今多くの不運に見舞われている人は、神様がその人の不運を認識していないっていうこと?」

「そうであってほしいな」

なあんだ紫藤もわからないのか、と入野は呟いた。