しばらくして現れた彼は、茶髪のおとなしげな少年だった。
「オノくん。愛称はおのっさん。おやっさんみたいな感じでね」
宮原の紹介のあと、おのっさんは「どうも」と会釈した。
「紫藤 廉です……」
「よろしく」
おれに年齢を問いながら、おのっさんは宮原の退いたおれの前に腰を下ろした。
「今年で十七歳。おのっさんは?」
「おらも十七歳。先週なった」
「へえ。おめでとう」
ありがとう、とおのっさんははにかんだ笑みを浮かべた。
「でさ、囲碁強いってまじ?」
おのっさんは言った。
「まあ……」
あいつが言うには、とおれは宮原を見た。
ああ、とおのっさんは苦笑する。
「こいつ超弱いよね」
「超とは思わなかったけど……」
「まじか。じゃあ今回の勝負はおらの勝ちかな」
言葉を返したくなったが飲み込み、「そうかもね」と口角を上げた。
「どうしようか」
おのっさんは言った。
「レンはまだ十七になってないんだよな?」
「ああ」
なってないよと答えた。
碁石の色を決めるニギリのことだろうと思った。
それをやるのは基本的に年上の者だ。
「だからおのっさんが」
「おう」
おのっさんはにやりと口角を上げ、碁笥から碁石を取り、その手を碁盤に置いた。
「偶数、先」
おれは黒の碁石を二つ、碁盤へ置いた。
結果、おれが白の碁石を持って打つことになった。
あちゃ、と呟き、「こりゃあ面白くなりそうだね」と宮原は笑った。
絶対に負けたくないと思った。
これほど真剣になるのは久しぶりだ。
静寂の中、おれとおのっさんは一礼した。