「決してかわいくないことはないし、そんなふうに男と接していれば皆放っておかないようにも思えるんだが」
おれが言うと、入野は頬を赤く染めて目を逸らした。
「ほら、他の男の前でそんなふうにしてみろ。瞬く間にもてっもての入野さんだよ」
「……馬鹿」
入野は小さく呟いた。体ごとこちらを向く。
「……わたしは……わたしは、その……他の男子になんて興味ないから」
「へえ、男に興味ないんだ」
言いながら、彼女に許婚の存在があることを思い出した。
「でも……恋愛も自由にするんだろう?」
だからと入野は言った。その声からは苛立ちのようなものが窺えた。
「わたしは……わたしは、紫藤からもてたいのっ」
言ったあと、入野は目を見開き、「はっ」と息を吸った。
「トイレ」と声を上げ、がたんと音を立てて席を立った。
大股で教室を出ていく。
変なやつだと思っていると、宮原の嫌な笑顔に気がついた。
「廉くん? 君はお馬鹿さんなのかなあ?」
ねっとりとした口調で並べながら近づいてくる。
「廉くん、入野さんとどんな関係だい?」
宮原はおれの首に腕を絡め、そばにしゃがんだ。