休息を求める体を今日耐えれば明日明後日と二日の休みが待っていると励まして登校した。
入野はすでに自席にいた。
手元には半分ほど読み進められた文庫本がある。
おれが隣の自席に鞄を下ろすと、彼女はゆっくりとこちらを向いた。
合ってしまった視線をそのまま逸らすのもいかがなものかと思い、「おはよう」と会釈する。
入野は「おはよう」と微かに口角を上げた。
「入野も本なんて読むんだな」
「現実逃避ってやつね。部屋で見つけたから持ってきたの。紫藤も本好き?」
まさかとおれは肩をすくめた。
「ただただ文字が並んでいるだけのものを眺めてなにが楽しい」
「馬鹿ね。その文字の意味を理解しなさいよ」
「そんな脳疲労を引き起こすようなことはしない。ただでさえ日本語は深いんだ、それを作者ならではの表現なんかに使われようものなら、到底その言葉の意味など理解できないよ。ところで入野、お前昨日――」
おれは落としかけた教科書を持ち直した。
おれ天才と呟くと、典型的な馬鹿よと入野から返ってきた。
「で、お前昨日大丈夫だったか?」
「……えっ、どうして?」
「連絡なかったから」
「ああ。あれね、駆け引きってやつ?」
「おれに駆け引きしてどうする。やるなら親父さんにしろ」
入野はくすりと笑った。
おれがそちらを見ると、彼女は「ばーか」と笑った。
「朝っぱらから二度も馬鹿呼ばわりですか」
「だって本当に馬鹿なんだもの。仕方ないじゃない」
「馬鹿というものを治すのは大変なんだぞ」
「紫藤を見ていればよくわかるわ」
はいはいと苦笑すると、入野は「本当に馬鹿」と呟いた。
おれは聞こえないふりをして鞄を手に席を離れた。