「そういや廉、彼女ってできたか?」
宮原は自転車の後輪を回しながら言った。
おれは「いいや」と一言を返す。
「ふうん」
「宮原はできたのか?」
「全然できやしねえ。ほしいんだけどなあ」
「求めるだけではなにもきやしないぞ」
おっと、と宮原は呟いた。
「まだその聞いてる方が恥ずかしくなるような台詞は元気なんだな」
「ちょっと前に女友達にも言われたよ。まあ、自覚がないからな」
「末期だな、それ。自覚症状がないうちにかなり進行してる系」
「まあ、身の危険に見舞われるようなものではないから」
「体は問題ないだろうが心がそのうちどうにかなるぞ」
それは困ったと返すと、絶対思ってないだろうと笑われた。
宮原ははあと長く息をついた。
「さてと、そろそろ帰るとするかな。腹も減ったことだし」
「さっき菓子食ったんだろ」
「そんなの、チャリンコ漕げばなかったようなもんよ」
まあお互い頑張ろうなと残し、宮原は体を前に動かし、スタンドを上げて帰路についた。
またなと彼の背へ投げると、左手を上げた。
おれは二度前に動き、スタンドを上げて重たい自転車を動かした。
ないはずのギアができたかのようだ。
二リットルのペットボトル飲料を箱で買わされたときよりはましだと脆い精神を励ます。