「なんで、ママチャリの……通称を持つ、この型の自転車で、この急な坂道を……上らないといけないんだっ」
あの女完全におれを殺す気じゃねえかと腹の中で続ける。
黄色い菱形の標識には、矢印の書かれた三角形の上に「20%」との表記がある。
「勾配二十パーセントって……絶対こんななんの変哲もないママチャリで上るべき坂じゃねえし。なんで中学の自転車鍵錆びるかな」
ふと母親に独り言が多いと言われたのを思い出し、ふっと笑いがこぼれた。
店内は想像ほどは混んでいなかった。
主婦と思しき人が多い。
おれは余計なものは見ずに米が並ぶ方へ向かった。
途中、「あれっ」と小さく聞こえた。
振り返ると、その先にいた少年は表情をやわらげた。
「レン……?」
おれは後方を確認した。
相手の声に聞き覚えがないわけではなかった。
「君だよ君」と相手は苦笑する。
「もう忘れてくれちまったか? おれだよ、ミヤハラ」
あ、と声が出た。
思わずミヤハラと名乗る少年へ人差し指を向ける。