やがて、宮原の携帯電話が二分間経過したことを知らせた。
「早かったね」と言う宮原へ、「これほど長い二分間は後にも先にもこれだけだ」と返す。
宮原が姉から借りてきた鏡で相手に顔を確認させる。
「ちょっと」と宮原は苦笑した。
「『僕はバカです』って。漢字うまいし」
「おれは文字を逆に書くのが得意なんだ」
「どんな特技だよ」
「それよりお前はおれをどうしたかったんだ。目元口元、眉の間にほくろがあるが。
涙ぼくろのある少女にしたかったのか口元にほくろのある大人な女性にしたかったのか仏様にしたかったかのいずれかだとは思うが」
残念、と宮原は笑った。
「意味はないよ、ただのいたずらさ」
「どちらかと言うとおれの方が馬鹿っぽいんだが」
「まあ、正真正銘の馬鹿がいじったからね」
「なんか、ひどい寝癖を直す時間はなかったのに顔に落書きする暇はあるやつ、みたいな……」
「でも僕は僕でそれなりに馬鹿っぽいよ。髪の毛のせいで頭から煙出てる感あるし」
「煙出てる感を出したんだ、なくては困る」
「いやあ地獄だね。これなら二人で女装した方がましだったかも」
「それはそれで地獄だ」
宮原は楽しそうに笑い、「顔洗いに行こうか」と呟いた。