「へえ。ちゃんとした作りじゃねえか」

おれはサイト内をまわりながら言った。

「これは? その……お前に尽くしてくれる人が作ったのか?」

「いや、わたしが」

「お前が作ったの?」

思わず声を上げた。

入野は微かに頬を赤らめ、口角を上げる。

「へえ……。こんなサイトを運営しちまうのが同級生なんだもんなあ……。これで?」

携帯電話を持つ手を動かすと、入野は「パソコンで」と言った。

「へえ……。パソコンもなあ……入力だけなら人並み以上にできるんだが」

「本当にタイピングだけは得意なのね?」

「ああ。ただ、入力以外で右手を使うようになったら最後。機械に詳しい人でも初めて見るような文章が出るというのがおちだろうな」

どうもと携帯電話を返すと、入野は「入力だけできてもね」と苦笑しながらそれを受け取った。

「紫藤って本当に中国にルーツあるの? そんな機械音痴で」

「中国にも機械音痴はいるだろう」

「そうなの?」

「知らないが。それより、おれに中国の血が入っていることは忘れろ。おれの一割ほどのいいところも九割ほどの悪いところも、そのせいじゃない」

入野はこちらを向いて頬杖をついた。

にやりと口角を上げる。

「ずいぶんと中国をかばうわね」

「別にかばっているわけではない。ただ、おれと接触した人の中でおれのために一つの国の印象が悪くなるのが嫌なだけだ」

「へえ、優しいのね。ああ、でもまあ……海外に行った場合にはおとなしくしておくのかなあ、わたしも。確かに、わたしのために日本の印象が悪くなるのはちょっと」

「それと同じようなものだ。つい身近な人間で判断しがちだが、たった一人の一般人が国のすべてであるはずがない」

「……紫藤ってたまにいいこと言うわよね。確かに日本にも、いい人も嫌な人もいるもんね。身の周りにどんな人がいるかで別の大きなものの印象を決めてしまいがちだけど」

少しの沈黙のあと、入野は「ぶはっ」と噴き出した。

「でも紫藤の機械音痴ぶりはないわ」と笑う。

「なんか危うく、ぐちゃぐちゃってされるところだったけど」

「そんなにおかしいか?」

「だって、今までにそれほどの機械音痴さんとは出逢ってないもの」

「そういうところだ、過去の経験だけですべてを決めやがる」

「これが人間の性ってやつね」と言う入野へ「もう黙れ」と返す。