荷物を片付けて机に伏せると、女のものと思しき手に脇腹をくすぐられた。

入野だった。

「なんだ」

「嗜虐性……?」

入野は小さく笑った。

「いい言葉よね、ある程度のいたずらならこれで片付けられる」

「片付けんなあほ。気安くその言葉を使ったおれが馬鹿だった」

「小さい男の子は好きな女の子にいたずらを仕掛けるって言うけど、なんとなくその気持ちもわからないでもないわ」

入野は隣の席に着きながら言った。

「貴様は女なんだろう?」

「突っ込むのそこじゃない」

「なんて言ってほしかったんだ。ところで、入野って写真家になるんだよな?」

「ああ……うん」

入野は目を逸らし、微かに口角を上げた。

「で、今はそれに関することなにかしてるのか? 親父さん以外に」

「まあ……とりあえず」

「へえ。やっぱり写真撮るのか?」

「ええ」

入野はブレザーのポケットから携帯電話を取り出し、素早く画面の上で指を動かして画面をおれに見せた。

表示されているのは、誰でも自由に使えるものとして写真を配信するサイトのようだった。

利用報告は、気が向いた場合だけで構わないという。

「……これは?」

「わたしがやってるの。ここから火が点いてくれればラッキーだなって」

「へえ。ちょっと見ていいか」

入野は黙って携帯電話をおれに渡した。