意識を集中させれば、動物の思いがわかる気がする――。
そんなものはただの思い込みかもしれない。
「君にも、家族はいたろうにね」
おれは家で開けたキャリーバッグから出ていく黒猫に言った。
「……君、犬は好き?」
「本当にかわいい猫さんだね」
母親は言った。
「名前はなににしようか」
おれが言った。
「じゃあ……ジンさん」
「ジン?」
「漢字は神様の神。神社にいたからね」
「ほう、神くんか」
「男の子なの?」
「たぶんね」
母親は静かに立ち上がり、リビングを出た。
「じゃあわたし、買い物に行ってくる」
「ああ、よろしく」
はいはい、と母親はリビングの扉を閉めた。
少しの静寂のあとに「神さん見ててね」と聞こえ、玄関の扉が閉まる音が続いた。