「思い切りぶつかってみるというのはいつでもいいの?」という入野の声に「ああ」と頷いた。
「なかなか勇気が出るようには思えないけど」と言う入野へ「大丈夫だ」と返し、事が最悪へ向かったときにはおれが助けるという言葉を飲み込みんで「おれは入野の味方だ」と続けた。
入野との電話を切り、おれはリビングへ戻った。
「なあ、母さん」
ミシンの速い音を聞きながらおれは言った。
おちゃまるを呼んで彼を撫でる。
「ん?」
母親は作業をしながら応えた。
「母さんは、父さんと結婚するとき、反対されたりしなかったの?」
「なんで急にそんなことを?」
「いや、なんとなく」
「別に反対なんかされなかったよ。お父さんの家族もいい人たちだったし、わたしの両親も日本が好きだったから」
「そうか……」
「そんな残念そうに言わないでよ」
苦笑する母親へ、「ごめん」と同じように返す。
「いや、なにか反対されてるときに相手を説得するいい方法ってなにかないかなと思ってさ」
「ふうん……。でも廉、別になにも反対されてないじゃん。反対されたとしたって無理矢理やるでしょう?」
「いや、そうなんだけどさ」
「だったらそんな方法知らなくたっていいじゃん。いつだって強引、自分がよければそれでいい。それが廉のいいところ」
「たぶんそれ短所。でも、これでも最近は他人の幸せも望んでるんだぜ?」
「嘘をつくんじゃないよ」
「嘘じゃねえし。同級生にも見抜かれるほど嘘は下手だっつうの」
「それが短所か」と笑う母親へ、「長所だろうが」と返す。
「ねえ、おちゃまる。嘘をつけないのっていいところだよね?」
おちゃまるを正面から見つめて言うと、静かに顔を舐められた。
幸せだ、ごちそうさまですと舐められながら口にする。
「おちゃまるは嘘なんてつかないんだろうなあ。まあ、おちゃまるになら騙されるのも悪くないけど。
むしろ擬人化したおちゃまるにかわいい嘘で翻弄されたい。おやつ食べたのに食べてないとか。想像しただけでかわいすぎる」
「あたしの息子はいつからこんな変態さんになったのかね」
母親は小さく残し、作業を中断して台所へ入った。