階段を上っている途中で、手の中の携帯電話は入野あかねからの返信を知らせた。

布団を敷き、そこに座って内容を確認する。


「わたしが話があると言っているのに、お父さんには聞く気がない感じ」

「普通の会話はできるのか?」

「できなくはない。まあ一年のうちにほとんどしないけど」

「なら、その普通な会話から本題へ持っていったらどうだ」

返信の直後、携帯電話はメールの受信とは違う震え方をした。

画面は入野あかねからの着信を知らせる。


「……なんで電話なんだ」

電話などをしていい場所なのだろうかと考えたが、入野あかねがそれほど間の抜けた人間だとは思えなかった。

質問の意味が変わる。


「だって、紫藤の返信遅いんだもん」

「うるせえ。これでも何度か入力は速いと言われた経験があるんだ。貴様が速すぎるんだよ」

「それで速いと言われるようでは、世の中にタイピングが遅いと言われる人は存在しないわね」

「うるせえよ。それで親父さんの話だが、何気ない会話から本題へ持っていくというのはどうだ」

「それねえ……。まあやってみないことはないけど」

「で、結局このまま闘うのか?」

「まあ……それが一番利口でしょう。こそこそと写真家を目指した場合は、失敗したら最悪じゃないの」

「そうか?」

「こそこそと練習を重ね、コンテストのようなものに応募していい賞でも取れれば、まだましな結果が待っているのでしょうけど」

「その危機感でいい写真が撮れるようになるかもしれないじゃねえか」

「馬鹿。ストレスを感じながら撮ったらろくでもないものになるわよ」

おれは苦笑した。

入野家にも写真にも、一つも身近な要素がない。