「別に、貴様が与えられた現状に苦しんでいるのを見て楽しんでいるわけじゃない。むしろ、おれにできることはないかと考えている」
だからと声を上げる入野あかねへ、おれは組んでいた腕を解き、右手のひらを向ける。
「違う。それは、おれのすべきことではない」
「はあ……? なら、あなたはなにをしてくれるの? わたしを救うって言ったわよね? 救ってよ、今すぐに。助けてよ」
「……苦難は、雑に振り撒かれた小さな幸運を大きく見るためにあるんだ」
入野あかねはうつむいた。
自分に言い聞かせる目的の方が大きかった。
今は入野あかねの望む将来を願うには早い。それを再確認したかった。
なにかの不具合で一日中点いている街灯は、日中は電気の無駄だと感じるが、光源の少ない夜にはありがたい光となる。
入野あかねを取り巻く環境は、今にも雨が降り出しそうな曇り空といったところだ。
そこへ光が射しても、小さな安心を感じるだけだ。
どうせ同じものを差し出すならば、少しでも役に立つものにしたい。