「でも、社長というものが日々大きな責任のもとそれほど忙しくしているのであれば、『わたしが継げばこの会社は終わる』とでも言えばすぐに解決しそうなものだがな。
入野家の娘に限ったって、他に五人もいるわけだろう?
きょうだいなんて性格まで似るわけでもないし、妹の中にお前よりも会社の長にふさわしい者がいてもおかしくはない」
「でも相手の頭は、食品に例えれば鰹節、宝石に例えればダイヤモンドよ」
「ふうん。高く売れそうな頭だな」
「そうじゃなくて。相手は頭がかたいの」
「まあ、家族との闘いをどうするのかは好きにすればいい。それで自分の夢の価値もわかり、入野あかねもすっきりすることだろう」
入野あかねはおれへ鋭い視線を向けた。
「わたしが写真家にならなければ、あなたはお前の夢はその程度だっただとかまた臭い台詞を吐くんでしょうね」
「事実だろう。ただ、それを悪いことだとは思わないし、言わない。本当にやりたいことを見つけたということであれば」
入野あかねは大きな目を潤ませた。
「嗜虐性を極めている……? あなたのような神様にだけは言われたくないわよ」
震えた声を並べたあと、入野あかねは机の上の鞄を掴んだ。
「別に」と声を張り、彼女の動きを止める。