「……なんですって?」
「再度尋ねる。入野あかねは会社には関わらず、写真家になりたいんだよな?」
少しの沈黙のあと、入野あかねは静かに頷いた。
「会社を継ぎながら写真家を目指すということも不可能ではなさそうだが?」
「馬鹿じゃないの?」
「あれほど大きく成長した会社なら、社長などなにをしているかもわからないほどだろう」
「本当に馬鹿ね。いざ会社を継げば、カメラを片手に外を出歩くほど暇じゃないわよ」
「……大きく育った会社の長って普段なにしてるんだ?」
「その会社をよりよくするため、いろいろと。わたしも今はよくわかっていないけれど、暇ではないわよ。
長が変わらなければ会社は変わらないからね。そして会社が変わらなければ、会社は落ちていく」
「へえ。いろいろやってるんだな」
「知らなかったの?」
「どこで知れというんだ」
それもそうね、と入野あかねは苦笑した。