「宮原くんはさ、紫藤の左耳にあるピアスの秘密って知ってる?」

入野あかねは甘そうな菓子パンをかじって言った。

宮原はびくりと体を震わせた。

「えっ……と、その……」

おれは落ち着けと言いながら、前に座る宮原のつま先を軽く蹴った。

「入野あかねが好んで食べるのは甘いものだ。人間じゃない」

言った直後、脛に痛みが走った。

右側に座る入野あかねに蹴られたのだとはすぐにわかった。

声を漏らして脛を擦る。

「……廉くん?」

宮原のなにかを恐れるような声に、「入野あかねに蹴られた」と返す。

「入野あかね。前にも言ったがな、結構痛いんだぞ、これ」

「そんなこと、わたしが知ったことではないわ。紫藤が蹴られるような言動をとるからでしょう?」

「おれは友達の緊張を解こうとしただけだ」

「その緊張の解き方が間違ってるのよ」

「ことのやり方に正解も不正解もない。そんなものは自分で決めるんだ。貴様が決めることじゃない」

入野あかねは黙って脛を押さえるおれの手を蹴った。

「ちょっと」と声が出る。

「手はだめだろう、手は」

おれは自分の手を確認した。

「宮原も言葉選びには気をつけろよ」と告げると、彼は「そうするよ」と苦笑した。