宮原とともに売店から戻ると、入野あかねは「遅かったわね」と言った。
彼女はすでにおれの席へ近づけた椅子に座っていた。
「なにを当然のようにおれの席半分を占領していやがる」
「いいじゃない。昨日言ったように、わたしには友達がいないの」
「まあ……別にいいんだけどさ」
宮原くんもどう、と入野あかねは優しく言った。
宮原はおれのブレザーの袖を引いた。
「入野さん、機嫌斜めってるのかい?」
宮原は小声で言った。
「なんでそう思う」
「だって、入野さんのあんな優しい顔見たことないし、あんな優しい声も聞いたことないよ。顔は笑ってるけど内心すごい怒ってるみたいなやつじゃないの?」
「入野あかねも、ほんのほんの少しずつながら成長してるんだ。あまり変なことを言うと――」
紫藤だよと入野あかねはおれの言葉を遮った。
宮原が怖い怖いと苦笑すると、入野あかねは表情をやわらげた。