沈黙に目をやると、入野あかねは肩を震わせていた。

目元を拭うようにこすり、鼻をすする。

「どうした。会社継ぎたいか?」

おれが問うと、彼女はかぶりを振った。

「わかんない」

「写真とどっちをやりたい?」

「わかんない……けど、わたしに経営者は向いてない……」

「なら、写真でいいじゃないか。向いていないとわかっていることならやらなくていい」

「でもお父さん……」

「大丈夫、きっと変わる。お前が諦める頃にはおれが変える」

もう諦めてると返してきた涙声に苦笑する。

自分は所詮人間なのだと思った。

今すぐにでも彼女の望む将来を願いたかった。

入野あかねの背に手を置くと、彼女からこちらに寄ってきた。

「もう嫌だ」

震えた声と嗚咽をなだめるように彼女の背をさする。

「大丈夫、お前はきっと幸せになる。もう少し頑張れ」

入野あかねは胸の中でかぶりを振った。

「紫藤……助けて」

「……もう少しだ。もう少しだけ、頑張れ」

入野あかねはおれの胸を殴った。

おれは彼女の頭を撫でる。

これで後の小さな幸運が彼女にとって大きなものになるなら構わない。

心ゆくまで殴ればいいと思った。