「で、親父さんはなんと?」

おれは言った。

入野あかねはかぶりを振る。

「全然だめね。取り合ってもらえない。きっと、彼に反発しようと考えたこと自体が間違いだったのね」

「まだ一度目だ。親父さんも、娘がこんな行動を起こすとは考えていなかったんだろう。何度か話をすれば受け入れていく。もちろん、それと入野あかねの反発を肯定するのとは違うけど」

「きっと、彼がわたしを受け入れてくれることなんてないわよ。わたしが本気であることを理解したら、捨てて次女に狙いを定めるまでよ」

いただきます、と入野あかねはペットボトルを開栓した。

「そうなれば幸運じゃないか。家から解放されるわけだろう?」

彼女はふうと息をつき、蓋を閉めた。

「そんなことになれば、わたしはどうしようもない」

「というと?」

「家も金も勤務経験もない。しばらくの野宿生活の後にのたれ死ぬだけよ」

「お前友達いないのか? 家を出ることになった場合には、ある程度の金が集まるまで誰かの家にでも居候すればいいだろう」

「友達はいるわよ、決して多くはないけど。だけど、そんな人たちに迷惑なんてかけられない」

「そんなことを気にするなんて、友達じゃないだろう」

「なら、わたしには友達はいないのかもしれないわね」

「まあ、友達がいないのは悪いことじゃない。犯罪じゃあるまいし」

そうだけど、と入野あかねは頼りなく苦笑した。