携帯電話が入野あかねからの着信を知らせたのは十七時を少し過ぎた頃だった。

手の中の振動に眠気を払われる。


「おう」

「ああ……わたし」

「知ってる」

「その、やっぱり……」

耳元の入野あかねの声は、微かに震えていた。

「安心しろ、大丈夫だ」

くるかと問うと、うんと頼りない声が返ってきた。


しばらく待てば入野あかねは姿を見せた。

「おつかれ」

「まさか本当に待っていてくれたとはね」

「救いたいと思えた人間が望んでいるなら、これくらいのことならな」

隣へきた彼女へ、おれは電話を切ってから自動販売機で購入した炭酸飲料を差し出した。

「あげる」

「……いいの?」

「こんなもの自分のために買わないって」

「わたしが電話だけしてここを訪れなかったらどうするつもりだったの?」

「そんなことは考えなかった。あの雰囲気ではきっとくると思ったからな」

「へえ」

紫藤 廉の大好きな貸しができたわね、と入野あかねは頼りない笑みを浮かべた。