「本当にかわいいな、君」
「……なにか、返ってくるの?」
宮原は静かに問うた。
「なんとなく、わからないでもない気がする。こっちから話し掛ければ、動物だってちゃんと動物なりの形で答えてくれる」
「……ほう」
おれにはよくわからないとでも言いたげな声だった。
「君は野良なの?」
おれは黒猫を撫でながら問うた。
「……野良なの? そうか。じゃあ、うちにくる気はないかな」
「えっ、飼うの?」
宮原は驚いたように言った。
「うん。この猫さんが嫌じゃないならね」
おれは黒猫を撫でながら、黒猫に意識を集中させた。
「……嫌、ではない?」
「廉って本当に変人だよな」
「ああ、よく言われるよ」
「変人と言われて気にしない辺りも、もう変人ぽいもんな」
「自分が変人であっても困ることは特にないからね」
よし、と声に出し、おれはゲーム機の入っていたポケットから携帯電話を取り出した。
黒猫を撫でながら操作し、母親の携帯電話を呼び出す。
数回コールを聞けば、「はいはい」と母親の声が聞こえた。
「廉だけど」
「はいはい、どうした?」
「あのね、友達の家の近くの神社にね、黒猫がいるんだ」
「あら、そうなの」
「すごく素敵な猫さんでね。野良猫みたいで、うちにこないかと誘ってみたところ、嫌ではないみたいなんだ」
「そうなの。じゃあ連れてきたら? 猫さんがそうしたいなら、叶えてあげないとね」
「ありがとう。ペット用のキャリーバッグなら使ってないものがあったはずだよね。それを持って、これから迎えにきてほしい」
了解了解、と言う母親へ神社までの道を教え、おれは電話を切った。