放課後、入野あかねはおれが教室を出た直後に「わあ」と叫んだ。

驚きに「ああ」と声を上げ、数歩下がってぶつかった生徒にすまないと頭を下げる。

「なんだ、入野ばかね」

おれは言いながら入野あかねの前に立った。

あかねよと返され、わかってると返す。

「で、人の心臓に打撃を与えてなんの用だ」

「あのね」

微かに頬を赤らめてうつむく彼女へ、「誤解されるようなことはしないでくれよ」と返す。

「社長令嬢、入野あかねとの色恋沙汰が噂されればまず面倒なことになる。緊張感を漂わせるな」

「そんなことを言われても」と呟く彼女へ、「早く用件を」と返す。

「あの……その、よかったら……でいいんだけどね」

「ああ。貴様のためになることならばなんでもする」

「じゃあ……今日ね、このあと……あの公園にいてほしいの」

「公園……昨日のでいいのか?」

「ええ。今日、お父さんに言ってみようと思うの……。それで、その……あ、会いたく……なるかもしれないから」

「なるほど。入野あかねらしくもないかわいらしいお願いだな。いいだろう」

「紫藤 廉、門限とかないの?」

「俺は野郎だ。危険ということもない」

「この時代は誰が狙われるかわからないわよ」

「問題ない。人のためになるのなら、己の身に起こる多少の危険も厭わない」

本当に馬鹿ねと言いながら、入野あかねは鞄から携帯電話を取り出した。