しばらくの静寂のあと、入野あかねはふうと息をついた。

「でも、あなたのそれもずいぶん便利よね」

「そうか?」

「自分の人生、すべてを自分の思いどおりに動かせる」

「ばーか。他人の幸せが絡んでいない限り、自分の幸せのためにはこんなもの使わないよ」

入野あかねはこちらを見た。

ふっと笑い、「馬鹿はどっちよ」と呟く。

「本当に馬鹿。もう、言葉では表せないほど。なんでそんなに馬鹿なの? 意味がわからない」

「おれはなんでこんなに馬鹿と言われているのかがわからない」

「それは馬鹿だからね。自分のためにその不可思議な能力のようなものを使わないのとは別のね」

「馬鹿にも種類があるのか」

「いいわよ。説明したって、紫藤 廉ほどの馬鹿には伝わらないでしょうから」

「はいはい。おれには入野あかねのような天才の考えることなど理解できませんよ」

「別にわたしは自分を天才だなんて思っていないわよ」

「へえ。まあ、天才ならばすでに自分の望む将来を手に入れているわな」

入野あかねは小さく舌打ちし、パックへ手を伸ばした。