「おれにとって、入野あかねを救うことも放置することも難しいことではない。
貴様が望むなら、おれは今すぐにでも貴様の将来が貴様の望むものに変わるよう念じる」
なら、と声を上げる入野あかねを、おれは空いている左手のひらを向けて鎮める。
「今回の件で耐性ができなかった貴様を、生涯不運から救うこともできる。
しかし、貴様はそんな人生を楽しいと思えるか?」
「……別に、困難なんて要らない。そんなもの……」
「そんなもの――がなければ、ろくでもない人間になるぞ。おれみたいな」
「紫藤 廉は、やはり困難に見舞われたことはなかったの?」
「まあな。ただ困難を困難だと認識していなかっただけかもしれないが」
その可能性の方が高いわねと微かに口角を上げる入野あかねにうるせえよと返す。
「貴様が嫌でなければ、おれを見習え。楽しいことだけして、それができないのならばいかなる手段を使ってでもできるようにする」
「でもお父さんは……」
「大丈夫。父親と闘い、限界を迎えた貴様が望むなら、おれが貴様の将来を変えてやる」
「……馬鹿」
入野あかねは言いながら、かかとでおれの脛を蹴った。
「ちょっ、不意打ち。貴様は知らないだろうがな、だいぶ痛いんだぞ、これ。なんで蹴られるのかもわかってねえし」
「うるさい馬鹿。少し異性の心理を学んだ方がいいわ」
「おれは勉強が嫌いだ」
再度脛を蹴られ、「今絶対十割間違いなく痣に入った」と並べる。