「なにが面白い」
「あのかわいい黒猫ちゃんが紫藤 廉なんだと思ったら、なんだかね。あの子は、紫藤 廉が腕の中で看取ったという神ちゃん?」
「ああ、そうだよ。今のおれを作るのは、ほとんど彼だ」
「というと?」
「今のおれは、瞬発力はあるが持久力がなく、眠りを愛し、道に迷うことは決してない男だ」
「最後の一つだけは頼れるわね」
「これらは猫の特徴と一致する」
「それだけのことで、神ちゃんが今の紫藤 廉を作っていると?」
「かつてのおれは、瞬発力はいまいちだが持久力はあり、遊びを愛し、知らない道を行こうものならば必ず迷う男だ」
全然頼りにならねえ、と呟く入野あかねへ、「それが本当のおれだ」と返す。
「そんな頼りないおれが道に迷わないということだけは頼れる男になったのは、自分が神であると思い込むようになってからだ。
つまり、神のなにかが宿ってからだ。宿ってるのかはわからないが、とにかく神の姿になれるようになってからだ」
「ふうん……」
入野あかねは顎に手を当てた。
「あまりに非現実的すぎてよくわからないけど、いくつもの偶然が重なったのかしらね」