しばらくの噛み合わないやり取りの末、入野あかねは「首輪を外してほしいのね」と頷いた。

ああこういうカチャってやつかと呟いたあと、「外すわよ」と宣言してくれたのは幸運だった。

首輪を外された直後、心臓がピアスのときとは違った痛みと肥大化するような感覚を伴いながら震えた。


「うわっ、びっくりした……。大丈夫?」

「ああ……。慣れはしないが、望まないまま……幾度か経験した」

おれは神の姿になったときとは違う、速く浅い呼吸を整えながら答えた。

「へえ……。あの黒猫のときには、紫藤 廉としての意思はあるの? ただただ姿が変わるだけ?」

「ああ。だからむやみに触ろうとすれば噛むか引っ掻く。あくまで黒猫の姿をしたおれだからな」

「へえ。なんか間違えて拾っちゃったときには最悪ね」

「あの姿で外なんか出歩かないし」

ああそうか、と入野あかねは苦笑した。

「さらに驚いたのはあれね、人間に戻るとき、人間であった最後の姿に戻るのね。服とかどうなるのかとはらはらしたけど」

「ああ。服を着ずにピアスを外さない限り、その心配はないようだな」

「へええ。面白いのね」

「面白いものか。変わる瞬間は毎度死ぬ気だっつうの」

入野あかねは楽しそうに笑った。