「……どういうこと?」

「まさか貴様の不満の種が親だとは思わなかった。親程度の相手ならば、貴様が行動を起こせばすぐに解決する」

「……はあ? じゃあ、わざわざ紫藤 廉に家や将来のことを話す必要なんてなかったじゃない」

「いいや、そんなことはない。むしろ話さなくてはならなかった」

「どうして。わたし次第でいくらでも変えられるのでしょう?」

「ああそうだ。だが、貴様はおれの長ったらしい説教がなければ変わらなかった」

入野あかねは唇を噛んだ。

「せっかく悪い形じゃない唇なんだ、傷は作るなよ」

「どんな慰めよ」

おれは苦笑した。

「で、おれが神であるという自覚を持つようになったのは、中学校二年生のときだ」

「やっぱり例の病気じゃない」

「まあ、そう思うのならばそう思っていればいい。やがてそうもしていられなくなるだろうがな」

入野あかねはふっと笑い、肩をすくめた。

「おれが中学校二年生の頃、小学校高学年の頃から家族となった黒猫が腕の中で眠りに就いた」

「……亡くなったの?」

「ああ。彼の名前はジンだった。漢字は神社の神。

神は元野良猫だったのだが、当時仲のよかった友人の家の近くにある神社で拾った。名前の由来はそれだ」

「へえ。男の子だったのね」

「ああ。おれと同じ性別だとは思えないほどにかわいかった」

「紫藤 廉って動物好きなのね」

「『どちらかと言えばいじめていそうだけれど』ってか?」

そうねと笑う入野あかねへ、ふざけんなと同じように返す。

「動物だけはなにがあってもいじめないよ」

「意外ね」

「うるせえよ。人は見かけによらないって言うだろう」

ふふふと笑う入野あかねに苦笑する。