おばあちゃんから幾度も話してもらった秘密の情景は、もう私には鮮やかすぎて仕方がない。いまだ眩しく、まるで、過去のその場に私も立っていたような感覚に陥る。
いや、実際居たのだけれど。
赤ん坊の私を抱くおばあちゃんを、歳を重ねても大切にしてくれ、憎まれ口をききながら慈しみ、見守ってくれてきた男の人に、おばあちゃんだって惹かれなかったわけではない。それがどの程度のものだったのかは、本人の心の中にだけあって、私も知らないこと。
けれど……。
「ありがとう、って、おばあちゃんは、その人に言えなかったの。"あなたのおかげ"がおばあちゃんにはたくさんあったのに何ひとつ」
もう会えないのか、とは訊けるはずもなかった。
その日を境に、男の人はおばあちゃんの前に現れることはなかったという。
男の人は最後、ただ優しく微笑んだ。そうして、おばあちゃんには触れることなく、髪の毛がなかなか生えてこなかった私の頭を撫でていき、ゆっくりと背を向け、そこからどこかへ帰っていった。
そのとき、男の人は何かを落としていって。
追いかけようとしても間に合わなかった。拾い上げたそれは、一粒の真珠のようでいて、もっと尊く美しい、宝石のような球体。
「――いつか、その人にもう一度会えたら返そう。たくさんの感謝を伝えようって、おばあちゃんは……」
病室で秘密裏に、それは私へと託された。
「私が、その意志を受け継ぎました」