「おばあちゃんはね、昔、それはそれは美人だったそうよ? もちろん今もそうだと思うけどね」


私の言葉に相槌もせず、男の人は肩で面白がる素振りをする。おばあちゃんを見つめ、同意の雰囲気を醸し出す。


「おじいちゃんがずいぶん早く亡くなって……とても苦労したって。子ども三人とおじいちゃんの両親との生活なんて、私の貧弱な想像でも大変だったと思う」


私に教えてくれたおばあちゃんは、文句の多い思い出話をしながら、幸せそうでもあったけれど。
働いて子育てと家のこともこなしての生活は、あっという間の何十年間だったと、おばあちゃんはこの家の縁側でけらけらと笑って話していた。


そうか、とひと言だけ、男の人は呟く。


「再婚の話も、もちろんあったみたい。昔って、今よりもシングルの存在に寛容でなかったんだよね」


再婚の話がご近所親戚等からもたらされたり、おばあちゃんをどこかで見初めて直接申し込んできた人もいたみたいだ。


聞いてはいるのだろう。けれど反応を示すふうでもなく隣に座るだけの男の人に、私は勝手におばあちゃんの昔を語る。


「でも、どの人とも、おばあちゃんは結婚をしなかった。再婚を否定するわけではないけれど、それに動ける心は、まだまだおじいちゃんで占められてた。断ったあとはもう、それらの人を思い出しもしなかった」


そんな、ひとりの人だけを愛し続けられるおばあちゃんに、私は幼い頃から今でも、ずっと憧れている。


たとえ、その気持ちが少しばかり揺れた瞬間があろうとも――。


「――でもね、ひとりだけ、ずっと、覚えている男の人が、いるんだって」