深く息を溜め、それを緩く丸めた指に向けて吐けば、じわりとそこに温もりが広がる。けれどそれは一瞬のことで。
もう一度、息を吐く。今度は広げた手のひらで口元を覆うようにもっていった。
「……っ」
いけない。
広げた手のひらから、一粒の小さな球体が転がり落ちる。気を付けていたのに。吐いた息の強さではなく、ものが軽すぎるのだ。
その球体は、私がおばあちゃんから秘密裏に譲り受けたものだった。
宝石のようでいて実はそうではないかもしれない球体。真珠のような大きさで見た目もとても似ている。乳白色のそれが時折虹色に光る様は、私にとってはどんな宝石よりも美しいものだった。
いつかあなたがあの人に会うことが出来たら返しておいてね――おばあちゃんから、そう言って託されたもの。
転がる球体を目で追っていくと、徐々にそのスピードは衰えていく。
そのうち部屋の角にぶつかって止まるだろう。でもその前に取りに行こう。万が一壊れてしまってはいけないから。
立ち上がろうとお尻を浮かせてよつん這いに近い体勢になった私の動きは、けれど、球体の転がる先にあったものに驚いて固まってしまう。
なんで?
この部屋にはおばあちゃんと私しかいなかったはず。誰も来ていない。
それは確かなはずだった。
けれど、球体の転がる先には、誰かの爪先があったのだ。
男の人の、大きな足が、そこにはあった。爪先から視線は移動し、骨の線が綺麗に浮き出た甲が目に映る。 私は体勢はそのまま、顎を上げてその姿の全容を確認する。
そこには、藍色の着物と頭巾を身につけた、大きな男の人が立っていた。