男の人の目元を覆う布から一瞬だけ見えた目の色は、おばあちゃんからきいていた男の人のそれと似ていた。紅い紅い、唯一無二の色。外れた頭巾からは銀狼の髪色が飛び出した。
直感がこの人だと告げたのは思い込みか、血が為した何かなのか。
もう、この人だとしか思えなかった。


私が確信していることを、きっと男の人は気付いているだろう。けれど、他人のふりをする。
追及することは、しなかった。
ふわふわとした地に足の着かない会話は、私とは違う次元で生きる存在とのことならしっくりくるというもの。


「そろそろ、終わりの時間だ」


「――はい」


そう言って、男の人は乱れのない所作で立ち上がる。


「達者でいろ」


「はい」


「お前は、絹子によく似ている。あのつんつるてんの赤子がこんな美人になるとはな。人間は恐ろしいものだ」


座ったままで見上げる私に、男の人は球体を返してきて譲らなかった。


「でも……」


「厄除けだ。それが消えなかったのが、絹子の人生が幸せだった証だ。持っておけ。大丈夫だ。お前の継いだものは、ちゃんと伝わっているはずだ」


「でも……っ」


「幸せに生きてくれて、良かった」


そうして、男の人は私から離れていき、何処かへ帰っていこうとする。
去り際、その横顔に光る線が走った。
覆われた目元あたりから流れてきたようなそれは、きっと涙で。畳に落ちたとき、その涙があの球体なる。


「っ、これっ」


「もうひとつ、厄除けをくれてやる」


おばあちゃんのときも、こんなかんじのお別れだったのかな。霧のように消えていった男の人の足下に落ちた、ふたつめの球体を握りしめる。これは夢だったのだと言い含められるように、私の意識はそこで途切れた。




再び目を覚ますと、私の身体には毛布が掛けられていて、おばあちゃんを挟んで向かい側にはお父さんが座っていて。


「私……」


「ずっと寝てたぞ。風邪ひいてないか?」


「うん」


手の中に感じる二粒の球体の存在を感じ、私は毛布に顔を隠す。


もう少しだけ、涙が流れた。





――END――