くしゃりと、頭を撫でられる感覚を懐かしいと感じた。馬鹿みたい。覚えてもいないはず。今の私にはきちんと髪の毛はあるし、感触だって異なるのだし。
けれど、そうしてもらえたことに涙が出そうになる。


「お前は阿呆だなあ」


慈しむように言われる失礼な言葉。


「そんなこと、儂がわかるわけないだろう」


見上げた男の人は、私の頭に手を置いたまま、もう片方の手では、先程握らせた球体を捨てないでいてくれた。


「わからないが――」


そう、男の人はうそぶいた。


「――そいつが、お前を恨むわけがなかろう。……確かに、寂しさはあった。一世一代のことだったからな。だが、愛しい女の愛おしい存在を、どうやって恨めるというのか。そんな次元の低い愛しかたをしていたわけではない。家に憑く類いでなかった儂がそうなってまでずっと見守ってきたお前たちが、絹子を囲む全てが、今でも変わらず、愛おしいよ」


安堵なのか罪悪感からなのか、私の目からは涙が止まらない。拭ってくれる、指の腹が心地よくて、もっと溢れる。


「もしもの話でそんなに泣くな」


「……ぅぅっ」


途中から、もしもの話でなくなっていたことに、この人は気付いているのか。指摘したら、きっとまたうそぶくのだろう。
おばあちゃんの名前を思わず口にしたはずの自分は、けれどその人ではないと。