耳障りな振動が伝わってくる低い声。

 黒い影が一歩一歩、ユキに近づく。

 胸の痛みが激しく増して、息が苦しい。

 胸を必死に押さえ、よたつきながら立ち上がろうとしたその時、黒い影の手がユキの肩を掴んだ。

 ユキの胸の痛みも頂点に達した。

「ああーー!」

 ユキの悲鳴が暗闇に響き渡る。

 ベッドで寝ているトイラの耳がピンと立ち、それをキャッチする。

「ユキ!」

 だが体は見えない鎖でしばられているように重く動かない。

 歯を食いしばり、体に力を入れて全てを跳ね除ける。

 ベッドから起き上がり、窓を開け、闇に向かって猛獣のような咆哮をあげた。

 みるみるうちに黒い塊となり、二階の窓から矢のごとく飛び降りて、声が聞こえた闇へと駆け抜けていった。