「落ち着け、トイラ。またそんな状態でユキと顔を合わせたら、ユキが気にするぞ。ただでさえ、今ぎこちない関係なんだからさ」

「それでいいんだよ」

「言いわけないだろ。わざと嫌われようとして睨んだところで、気持ちは嘘をつけないだろう。必ずボロが出るんだよ。お前はほんと単純過ぎるんだよ」

「ほっといてくれ」

 痛いところを突かれてトイラの目は鋭く眼光を放ち、グルルルと白い歯をむき出してキースに威嚇した。

 キースは無駄だと相手にしない。

「だけど、ユキの記憶が戻ったらどうすんだよ。何もかも思い出したとき、お前はどうするつもりだ」

「ただ、すまないと謝るくらいのものさ。お互いどうしようもないことくらいわかってるからな。全てが終われば俺は元の世界へ戻る……」

 語尾が自然に弱まるトイラ。

「そう簡単にできることだろうか。トイラを見てるとさ、もどかしいよ」

「俺はお前について来てくれとはいってない。嫌なら今すぐ帰ればいい」

「何言ってる。これはトイラひとりの問題じゃないんだぞ。僕たち全てにおいて一大事なんだから。トイラひとりには任せられない」

 落ち着いていたキースの感情が高ぶった。

「すまない。あの時、俺が奴に騙されて利用されたがために」

「仕方がないよ。恋は盲目だから。お前も必死だったもんな」

「俺、必ずこの責任を果たす。ユキも必ず守る。そして奴を倒す。俺たちの森、侵させはしない」

 トイラの緑の目が鋭く光った。

 そこには覚悟が感じられるが、キースはその目にまだ何か足りないものを感じていた。