「きっとこの辺りに猫がいるんだと思う」

「多分そうかもしれない」

 ユキも心当たりがあるからそう思ってしまう。トイラは面白くなさそうに仁を睨んでいた。

「それじゃ僕はこれで」

 持っていたスーパーの袋を近くにいたトイラに差し出した。

 トイラはそれをぎこちなく受け取っていた。

「新田君、ありがとうね」

 ユキがお礼を言うと、自転車に跨った仁は、くしゃっと笑う。
 そして大きなくしゃみをして去っていった。

 ユキはクスッと笑って、暮れなずむ空の下、小さくなっていく仁を見送っていた。

 トイラは気に食わなさそうに、チェッと舌打ちした。

「なんか、いい雰囲気だったよね」

 トイラを尻目に、キースは冷やかした。

「えっ、何言ってるのよ。そんなことないって」

 ユキがありえないと手をひらひらと振って否定した。

「ただの荷物もちだろ」

 トイラは腹いせに呟く。

「何よ、まるで私が利用したみたいじゃない」

 トイラはユキが持っていたもうひとつの袋を取り上げた。

「ちょっとトイラ」

 二つの袋を持って先を歩いて言く。

 キースが肩を竦め、呆れた表情を作ってユキに見せた。

「アイツも荷物もちになりたかったのさ」

 ユキは黙ってトイラの背中を見つめ逡巡する。そして小走りでトイラを追った。

「お腹空いた?」

「まあな」

 そっけないトイラの態度。
 でも傍にいるとユキはほっとした。