「えっ、そんなことない。春日さん、帰国子女でしょ。英語も話せてかっこいいじゃん」

 仁が微笑んでいる。面と向かって言われるとユキは面映かった。

「だから、それが偉そうにしてるとか、いい気になってるとか言われる原因になってるみたい」

「それって、同じ人種なのに習慣が違って意見が合わないから、カチンってきちゃうのかも。もし春日さんが外国人だったら素直に受け入れられてると思う。君のところに居るあのふたりがそうだろ。違う環境で育っているのが羨ましいのかも」

「羨ましい?」

 ユキは目を瞬く。

「人って自分が得られないものを相手が持ってると、認められないときがあるんだよ。コンプレックスをつつかれたり、自分の立場が脅かされると、攻撃しちゃうんだよね」

「そんな」

「でも、好意的にとった場合は違うよ。仲良くなりたいなって思う人もいるから。僕みたいに」

「えっ?」

「いやいや、例えばの話だけどさ」

 仁はごまかして笑っていた。
 その笑顔が人懐こい。

 次第に車の量も減り、町の喧騒から離れていく。
 やがて辺りは田んぼや畑が広がってのどかな風景となっていった。

 途中何度か猫を見かけ、そのたびに仁は大げさに避けていた。

「もしかして、猫が嫌いなの?」

「違うんだ。僕、猫アレルギーで、猫が近くにいると鼻づまりになったり、くしゃみがでたりするんだ。不思議とさっきからなんか猫をたくさん見ない?」

「そういえば、そうかな。結構この辺りにはいるのかも」

 自分の家にたくさん集まってくる猫をユキは想起していた。

「僕の叔母が、獣医でね。猫アレルギーなのに、時々預かってる犬や猫の世話を手伝わされる事があるんだ。動物は好きなんだけど、こういう体質だから辛くてさ、それでつい猫を見ると距離を大げさにとってしまうんだ」

「大変だね」