「キャー」と叫んだユキの声は、家中に響き渡り、耳にしたものを緊張させた。

 トイラが素早くユキの部屋に駆け込み、キースもすぐさま現れた。

「ユキー!」

 小さな黒い影が機敏に動いてユキを襲っている。ユキは手をバタバタとさせて抵抗していた。

 トイラはユキの前に滑り込んで立ちはだかり、鋭い目つきで狙いを定めて、いとも簡単にそれを一瞬で掴んだ。

「一体何なの?」

 興奮冷めやらないユキが、トイラの肩越しにそっと覗き込んだ。

「スズメだ」

 ユキに差し出せば、トイラの拳の中で苦しそうにそれはもがいている。
 嘴(くちばし)でトイラの手をつばもうと無駄な努力を試みて、最後は疲れて息が切れていた。

「トイラ、スズメだからって油断するなよ」

 カラスの二の舞にならないか心配しながら、キースは後ろで見守っていた。

「きっと迷い込んで偶然家に入ってしまったからパニックになったのね」

 トイラもキースもユキのようには思えなかった。
 これは明らかに罠だ。

 トイラはこのまま潰しそうに固く握り締めている。

 ビーズの目があどけない小さなそのスズメの哀れな様子に、ユキは助けてやりたくなった。

「ちょっと貸して」

「ユキ、触れるな」

 トイラが遠ざけようとしたが、ユキはトイラの腕を掴み自分に引き寄せ、スズメを奪おうとする。

「やめろ、ユキ」

「もういいから逃がしてあげてよ」

 ふたりはもみ合い、ユキが無理にトイラの手からスズメを解放そうとしたとき、スズメは近づいたユキの指に容赦なく嘴を食い込ませた。

 ピキーっとした鋭い痛みがユキの指先から全身に伝わる。

「痛い!」

 ユキが叫ぶと、トイラはハッとした。