「猫、猫に、猫を、えっ?」

 気が動転して自分でも何を言ってるのかわからない。トイラはじっとユキを見つめている。

「猫?」

「だから、その、勝手に餌をやらないで」

「俺はしてないが」

「えっ、でも、猫がうじゃうじゃと庭に、トイラも……」

 深く自分を見つめる緑の目をユキは見てしまい、そこから言葉が続かなくなってしまう。
 ただドキドキと心臓が高鳴る。

「ユキは、猫が嫌いか?」

「大好きだけど」

「どんな猫が好みだ?」

「好みって、言われても全部好きだけど、飼うなら大きな猫を飼ってみたいって小さい頃思っていた事がある。大きな体で寄り添って温めてくれて……」

 そこまでユキが言ったとき、トイラが目の前で微笑んでいた。

「どうした?」

「あっ、何でこんな話しているんだろうと思って」

 トイラの柔らかな表情を見るとユキはなぜかドキドキとしていた。
 恥らいが体の火照りを強くしていく。

 トイラの顔がまともにみられず、モジモジと体が勝手に恥らっていた。

「ユキ……」

 トイラが言いかけたがユキは遮った。

「いっぱいいたから、珍しくて相手してただけでしょ。わかった。でも餌だけはやらないでね」

 自分で話を早く切り上げ、ユキは向かいの自分の部屋にそそくさと入っていった。

 まだ心臓がドキドキしている。

 トイラの笑顔がユキの頭から離れない。

「何考えてるの私」

 ありえない、ありえないとユキは自分を否定した。

 気分転換に窓を開けて外を眺めれば、猫なんて全くいなかった。

 しばらく、夜空を仰ぎ瞬く星を見ていた。

 冷たい夜風が火照った体に気持ちいいと思ったその時、暗闇の中から猛スピードで何かがユキに突っ込んでくるのが目に入った。

 ユキは咄嗟に悲鳴を上げていた。