ユキはそれを広げて、書かれていた文字を見て目を見開く。

『いい気になりすぎ』

 殴り書きでかかれた、自分への警告。

 急に目立ってしまったことで、誰かが自分を気に入らないと攻撃している。

 分かっていたこととはいえ、直接文字を目にするとダメージが大きい。

 体がショックで震え、紙切れを手にしてユキは呆然となっていた。

 当然、そのユキの異常をトイラが気がつかないわけがない。

 ユキが持っていた紙をさっと横から取り上げた。

「あっ」

 ユキが声を出したと同時にトイラは立ち上がっていた。

「センセイ」

 トイラの声で、またこの場所に視線が集まる。

「トイラ、今度はなんだ」

「ユキ イジメ ラレテル」

「ちょっと、トイラ、やめてよ」

 ユキが紙を取り返し、すばやく机の中に隠した。

「トイラ、何を言ってる」

「だから、ユキが虐められてるっていってんだろ」

 気迫が伴った流暢な日本語が飛び出した。

「そ、そうなのか、春日」

 村上先生は圧倒され、弱腰で訊いた。

「いえ、その、彼、ちょっと日本語がよくわかってないみたいです。どうぞ授業続けて下さい」

「そ、そうか。でも、なんか日本語上手かったな」

 事なかれ主義で、村上先生はその場を受け流す。