「俺たちが現れて気が休まらなかったし、ただストレス溜まってたんだろ。なんだ、大したことないじゃないか。元気なら心配して損した。もしかして演技だったんじゃないのか。俺たちへの当て付けとかさ」

 もちろん本心などではなかった。カラスの話題から逸らすためにトイラはわざと憎まれ口を叩いている。 

「ちょっと、なんでそうなるのよ。何、その言い方。そうよ、ストレスに決まってるわ。もちろん原因はあなたたちよ。朝から裸を見せるし、抱きかかえられて猛スピードで走るし、一緒にいると目立つし」

「はいはい、せいぜい俺たちのせいにしてくれ」

「何よ。ふん」

 ユキはベッドから身を起こして立ち上がり、すぐ近くに置いてあった上履きを乱暴に履いた。

「私、教室に戻るわ。先生、どうもお世話になりました」

「あら、まだゆっくりしていいのよ」

 先生が引きとめるが、ユキは深く頭を下げ感謝の意を伝えて保健室を出て行った。

 トイラもその後をついていくと、キースは残念そうに先生に顔を向けた。

「ボクモ イカナクッチャ」

「またいつでも遊びにいらっしゃい」

「ウン。マタ アトデネ」

 キースも二人の後を追いかけた。

 静かになった保健室で、先生はひとり駒を動かし、裏表ひっくり返していた。