全く心当たりのない顔をするユキを見るのはキースも面白くなかった。

「ユキ、しっかりしろよ」

「ちょっとなんで私が注意されるのよ。注意すべき人物はあっちでしょ」

 指を差すもトイラの姿はすでに消えていた。

 そしてチャイムが鳴り出し、キースは何も言わずスタスタと歩いていった。

 ユキも同じようにキースの後を続くが、またふたりに惑わされ疲れきってこれ以上抗議する気力がなくなっていた。

 弱りながらキースと一緒に教室に入れば、さらにクラスの女子たちからの冷たい視線を浴びてしまった。

 矢鍋マリが女子たちを代表して近づいてきた。

「あら、あれが欧米の登校の仕方? まるでお姫様ね。さすが帰国子女の春日さん。外国人の心を捉えるのが上手いこと」

 見てたのだ。

 嫌みったらしく絡んできて、自分の欲求の不満を晴らしている。
 それをユキは哀切にみていた。

 マリとどうしてここまでこじれてしまったのだろう。