自分を抱えて恐ろしいほどの速さで走っているのに、平然とした凛々しい顔つきのトイラ。
 緑の瞳が朝の陽光を受けて色鮮やかに映えている。

 それを見つめているうちに、心が穏やかに落ち着いていく。

 心地いいと思ったときには学校が近づき、その勢いで抱きかかえられたまま学校の校門をくぐっていた。

 あまりの出来事にユキはトイラに抱きかかえられたまま放心状態だったが、周りの生徒たちの視線にハッとして我に返った。

「ちょっといつまで抱いてるのよ。下ろして」

 手足をばたばたさせて訴えるユキにトイラは悲しそうな瞳を向けた。

「ユキ……」

 また何か言いたげにしながら葛藤し、そうして出した答えは乱暴にユキから手を離したことだった。

 ユキは弾みでバランスを崩して地面に尻もちをついてしまった。

「あっ、もう。下ろしてっていったけどさ……」

 いかにも痛いと訴えようとしたのに、トイラはユキをまたもや置き去りにして先を行ってしまった。

「ちょっと、トイラ」

 何を考えているのか全くわからない。近づいたと思えば、すぐまた去っていく。

 優しさを覗かせながら、やることは間逆だ。

「トイラの奴、酷いな、ユキを落として去っていくなんて」

 先に学校に着いていたキースが、近寄って手を差し伸べ、ユキを引っ張りあげた。

「ありがとう」

 制服についた砂をユキは軽くはたいた。

 キースは気の毒そうにユキを見ている。

「まあ、トイラらしいって言えばそうなんだけど、あいつ、ちょっと今荒れてるから、仕方ないんだ」

「荒れてる? なんで?」

「それはトイラとユキの問題だから」

「えっ、私も?」