ユキが驚いているうちに、キースの背中がどんどん遠くなっていく。
 田舎道から土ぼこりが立って恐ろしいほど早かった。

「ユキ、何をもたもたしてるんだ」

 すでに後ろに追いついていたトイラが言うや否や、ユキはふわりと体が持ち上がり、飛ぶように進んでいく。

 何が起こっているのかすぐにはわからなかった。

 でもすぐ傍にトイラの顔があり、自分が抱きかかえられていることに気がつく。

「ちょっと、トイラ、何してるのよ」

 あまりにもびっくりしてユキはじたばたと手足を動かした。

「おい、暴れたら、落とすじゃないか」

 スピードが益々上がっている。
 本当に振り落とされそうに感じてユキは身を竦めてトイラの腕の中で大人しくなる。

 オリンピック選手でもこんなに速く走れないだろうと思えるスピードだ。
 そんな馬鹿な。

「ちょっと、速過ぎない?」

「遅刻したくなかったら、黙って大人しくしていろ」

 なんだか脅迫めいたその言葉に、ユキは口を閉ざしてしまう。