教室に入ると、ミカを見つけて『おはよう』とユキは挨拶した。

 戸惑っていたが、一応返事は返ってきた。

 最初の第一歩だと思い、ユキはにこやかに笑う。

 もう過去に虐められたことは気にしない。

 これが逃げずに前に進む第一歩。

 きっとトイラも応援してくれているはず。

 まだまだ心の傷はすぐには癒えないけど、一つ一つ片付けなければ前にも進めない。

 ユキはまた胸を押さえ、トイラを強く思った。

「あれ、今、トイラが側に居たような気になった」

 辺りを見回す。

 でも見えない。

 がっかりしてまた簡単に落ち込んでしまった。

 さっきの前向きな姿勢はまだ脆く壊れやすい。

 このままではいけないと頭を上げて背筋を伸ばす。

「なあ、春日、一人で何一喜一憂してるんだ。見てたら笑えるぞ。お前、面白いな」

 近くに居たクラスの男の子に声を掛けられ驚いた。

 しどろもどろになりながら、ユキは笑ってその場を誤魔化した。

 英語の時間、ユキの前に居た生徒が当てられ、答えられなくて困っていた。

 ユキは後ろから助け舟を出した。

 うまく答えられて助かったとその生徒が安心して席についたとき、後ろを振り向いてユキにお礼を言った。

 ユキは気分がよかった。

 するとトイラが一瞬窓際にもたれかかってこっちをみている錯覚をおこした。

 振り向くと何も見えなかった。

 ──あれ、まただ。