深夜はとっくに過ぎている。

 冷たくひっそりとした病院は不気味で一層の不安を煽った。

 病院の廊下の長椅子にユキはポツンと座わり、落ち着かない表情で考え込んでいた。

 ──仁まで失ってしまったら…… 

 不安でいたたまれなくなる。

 もうこれ以上誰にも迷惑は掛けられない。

 自分がやるべきことは何か、ユキは強く決心する。

 ──トイラのことを忘れよう。

 ユキはジークの巾着のことを強く考えていた。

 あれさえあればうまく行く。

 だか体が震えて仕方がない。

 思い出を削られることを身をもって恐れていた。

 その時、慌てて仁の父親と母親がやってきた。

 多少不安な表情をしている。

 しかしユキをみると気を遣って笑顔を見せた。

 ユキの心はまた罪悪感にさいなまれ た。

「おじさん、おばさん、ごめんなさい。私のせいで、仁が」

 ユキは取り乱していた。

「ユキちゃん落ち着いて。仁は大丈夫だから」

 母親はユキを抱きしめる。

「でも、おばさん、仁は肺炎をこじらしているって」

「それくらい大丈夫よ。治る治る。仁はそんなこと気にもしてないって」

 母親はにっこりしていた。

 そばで父親も頷いていた。

 仁の両親の優しさをもってもユキは自分は許されるべきじゃないと素直に受け入れられなかった。

 自分のことしか考えてなかったのに、周りは皆ユキを心配し てくれる。

 それが恥ずかしくて仕方がない。

 そこにユキの父親が現れた。

 仁の両親と挨拶して、病院での手続きの経緯を説明しだした。

 看護師も後からやってくると、仁が運ばれた部屋へとみんなを案内してくれた。

 幸い軽い症状ですぐ治ると言われ、仁の母親も『ほらね』とユキに笑顔を見せていた。

 ユキはベッドに横たわっている仁の手を取り、祈る思いで強く握りしめた。