「あなたが私をここへ呼んだのね。そして過去のトイラの映像を見せたのね。あなたは何もかもお見通しだった。私もトイラと共にあなたに見守られていた。でも私はこれからどうしたらいいのですか。トイラを失ってとても辛いんです」

 しかしその木は何も答えなかった。

 ずっしりとそこに威厳を持って立っているだけだった。

 それはまるで答えは自分で見つけなさいと言われているようでもあり、ユキを励まして見下ろしているようでもあった。

 急に木が視界から遠ざかり、闇が辺りを包んでいく。

 ユキの気も段々遠くなってゆき、知らずと倒れこんでいた。

「ユキ、ユキ」

「ん? 仁の声?」

 ユキが気がつくと、仁に体を起こされていた。

「ユキ、気がついたかい。心配したよ。ゴホッ、ゴホッ」

「仁、どうしてここに。それにあなた風邪を引いているんじゃ」

「ちょっと熱が出て今日は学校を休んだんだ。ユキのことが心配で電話したら、ユキのお父さん、ユキが帰ってこないって慌ててたよ。僕はすぐにここだってわかったから、迎えに来たよ。さあ、帰ろう」

 仁は再び苦しそうに咳き込んだ。

「仁、病気なのに」

「大丈夫さ、とにかく帰ろう。送っていくよ」

 仁は自転車でユキを送っていった。

 ユキは森をまた振り返る。

 もうこの森はあの森とは繋がっていないことがその時はっきりとわかった。

 あの木が見せたもの。

 あれはあの木の最後の別れの言葉だった。

 ユキに何かを伝えるための最後の別れの挨拶──。

 ユキはその意味を考えていた。

 長い道のりをユキを後ろに乗せて、汗を掻きながら仁は自転車を漕いでいる。

 かなり苦しそうだ。

 そしてユキの家にたどり着いたとき、仁は力果てて、倒れこんでしまった。

 ユキが仁に触れたとき、その熱の高さに驚いた。

「仁、大丈夫? やだ、しっかりして。パパ、救急車呼んで!」

 ユキはおろおろと慌てて叫んでいた。