ユキがまだ英語も話せず、環境や習慣の変化で戸惑い、毎日が辛かったときだった。

 学校でも上手く馴染めず、言葉でコミュニケーションがとれず、誤解が生じて、いつも虐められていた。

 父親は仕事で忙しく、構ってくれることさえなく、嫌になって家出したあの日。

 自分の居場所が欲しくて森の中に入っていった。

 それは誘われるように、何かに呼ばれた気がした。

 何を言われたかわからないのに、自分を必要としている声 だということがわかった。

 だからユキはそれを探そうとあちこちを歩き回っていた。

「あっ、転んだ」

 段差があるところで足を滑らせて、小さなユキは視界から消えた。

 その後起き上がらない。

 静かな闇を見てユキはあのときのことを思い出していた。

 落ち葉がふわふわと気持ち良く、疲れてそのまま眠ってしまったこと。

 そしてさらに小さかったユキ の心の思いがこの時再生された。

「そう、あのとき願ったんだ。私を必要としている人がいたら今すぐ私の側に来てって。そしてそのとき自分は心地よい居場所に案内されるって思えたんだっけ。だから黒豹のトイラをみたとき、それが私の探していたものだとすぐにわかって怖くなかった」

 眠りについていた小さいユキの側に、黒豹のトイラが現れ、そっと添い寝した。

「トイラ!」

 ユキの胸は押し込められたように切ない思いでいっぱいだ。

 思わず触れたくて手が前に出る。

 すると辺りの景色はぐるっと回り出す。

 今度は違う場面になり、トイラと過ごした日々が映画を見るように目の前に現れては、また違うシーンに移り変わっていった。

 ユキはどんどん成長していく、そしてトイラへの思いもやがて恋に変わっていった。

 トイラもユキを愛していく。

 二人の固い絆を織り成していった様子が綴りだされる。

 トイラと過ごした日々。

 かけがえのない大切なとき。

 涙がまた止まらない。