その頃、仁はベッドの中でぐるぐると動く天井を見つめていた。

 めまいがしていた。

 気持ち悪くなって目を閉じて、体を横に向ける。

 前日の雨の中にいたせいもあるが、悩み通しの日々が続き心も体も疲労の限界で、仁は体調を崩し熱を出していた。

 仁の部屋のドアを軽く叩く音が聞こえる。

 母親がドアを開けて部屋を覗きこんだ。

「仁、体の調子はどう? 熱は下がったかしら」

「うん、かなりよくなったよ。明日には治ってると思う。心配しなくていいからね、母さん」

「仁はそうやって何事にも負けないよね。病気になっても根をあげない。その調子。自分の息子ながら母さんそういうところえらいなって感心する」

「なんだよ、ヤブから棒に。大丈夫だから、もうあっちいってよ」

「はいはい。何か必要なときは言ってよ。それじゃお休み」

 静かにドアを閉める音が聞こえ、パタパタとスリッパの音が遠のいた。

 ──何事にも負けないか。

 仁は考えた。

 生きていたら負けそうにくじけることもある。

 でもそれが目の前に起こっている以上、受け止めることしかできない。

 逃げたところで、ずっと付きまとうのなら飛び越えて先を進むしかない。

 そう思うと体中に力が入り込んだ。

 この日一日、仁はユキのことばかり考えていた。

 暗黒に潜ったきり、もう出てくることもないような絶望感のユキの顔がちらつく度に、ジークからもらった巾着を思い出す。

 ユキのためにも後ろから振りかけようかと葛藤が続いていた。

 ベッドから起き上がり、部屋の壁にかけてあった制服のポケットから巾着を取り出した。

 そして窓を開け、巾着の紐を緩めて逆さに持ち外へ振りかけた。

 キラキラと銀の粉が夜の暗闇で天の川のように流れていった。

「これはユキの問題。僕がとやかくすることじゃない。ユキならきっと乗り越えられる。僕はそう信じるよ」

 仁は時計を見る。

 もう夜の10時を過ぎていた。

「ユキは今どうしているんだろう」

 仁は机の上に置いてあった携帯電話を取って電話をかけた。

 電話の音が一回鳴り終わらない間に慌てて受話器が取られたようだった。

 しかし『もしもし』と聞こえた声はユキの父親だった。

 前日の睨まれた厳しい目つきがちらつく。