──あの森へ戻る。

 ユキは気だるく、まぶたが重くとろんと閉じていく。

 疲労感よりもやるせない気持ちが体の上にのしかかり、さらに力を奪い取っていった。

 じっと動かずどこを見ることもなく、思いつめたユキのその姿は父親を不安にさせた。

 びしょ濡れで疲れ果てて戻ってきた自分の娘。

 何かがあった。

 それくらいは 父親として分かったが、自分勝手なことをした後ではこれ以上父親面することはできない。

「ユキ、そのままでは風邪を引く。お風呂に入って温まりなさい。またこのことは後でゆっくり考えればいい。パパは先に寝るよ。また明日ゆっくり話そう」

 父親は後ろめたそうに小さな声で伝え、そっとその部屋を出ていった。

 父親の廊下を歩く軋んだ音が寂しく聞こえる。

 遠くで静かにドアが閉まる音が聞こえた。

 ユキもベッドから、重い腰をあげる。

 トイラの姿をもう一度探すが、誰も使った形跡が残ってないその部屋では、ただ寂寥感が募るだけだった。

 そっとドアを閉めて部屋を後にする。

 冷たい体を引きずって、一段一段階段を下りて風呂場へと向かった。